保有効果を現場で活かすためのポイント
行動経済学の理論(項目)の一つである、保有効果 – endowment effect –
をもとに、ITコンサルタント実務に活用可能なポイントを紹介しています
1.たとえ事実であっても、お客様のシステムの批評はしない
2.お試し期間を設ける、安価で提供するなどで、とにかく一度使ってもらう
保有効果とは
保有効果(Endowment effect)とは、自分の所有物を実際の価値よりも高く見積もったり高い評価をしてしまうことで所有する前とあとでモノに対する価値観が変わってしまう心理をさします。いわゆるバイアスのひとつという位置づけです。
自分の所有物は実際の価値よりも高く感じる?保有効果という心理現象 より(外部サイト)
というものです。
一度保有すると価値を高めに感じてしまう傾向があり
苦労して手に入れたものであればさらに高い価値を感じる心理です
スキルであれば英会話、資産であれば土地などの不動産が顕著かもしれません
特に土地などの不動産については売り手の評価が高くなる傾向があり
売買の折り合いをつかせるのが難しいと聞きます
すでに保有している場合とまだ保有していない場合に分けて考える
保有効果のITコンサルの現場での活用に向けて
保有の状態を大きく以下2つに分けてそれぞれ考えていきます
- すでに保有している
- まだ保有していない
保有しているものに対して、第三者からの評価よりも高い価値をつける
すでに保有しているケース
たとえ事実であっても、お客様のシステムの批評はしない
すでに保有しているものについては、
持っているものの価値が高く見積もられがちだということを
念頭に置いて考える必要があります
ITコンサルとして接する機会が多いのは
現行システムや現行アプリケーションです
現行システムに対して保有効果が発生し、
こちらが感じている以上に、現行の環境に大きな価値を感じている可能性があります
第三者としてみて、現行システムに色々問題がある場合であっても
むやみに批評したり、課題を挙げていったりしないほうがいいでしょう
もしお客様が「うちの現行システムは課題があって全然ダメなんだよー」と言ったとして
便乗して「たしかにダメな部分が多いので、更改していきましょう」
といった発言を行うことは危険です
自身が発する批判と、他人から言われる批判では印象が全く異なるためです
客観的で、フラットな評価を行うことはITコンサルとして非常に重要ですが
同じ観点をお客様にいきなり求めるのは危険ということです
システム更改などの提案時には、
現行環境がダメだから更改しましょう、という言い方ではなく
お客様に寄り添うことを意識し、
「現行システムはまだまだ使えて有用ですが、
今後のビジネス拡大に向けて前向きに更改していきましょう!」
というアプローチがいいでしょう
まだ保有していない場合のアプローチ
お試し期間を設ける、安価で提供するなどで、とにかく一度使ってもらう
保有しているもののの価値を高く見積もる、ということは
新たに保有するものの価値を低く見積もる、ということでもあります
新しいものを保有してもらうためには、
現状よりも少し良い程度では実現が難しい意識を持つのがいいでしょう
新システムの価値を正しく認識してもらうためのアプローチとして
まず一度使ってもらう(保有してもらう)ことが有効です
一度使ってもらうための具体的な方法の一つとして
お試し期間を設ける形があります
例えば、システムであればPoCや検証の形で一度使ってもらう
サービスであれば1か月無料や、3か月は低価格で、といった形です
Netflixなどの映像配信系を考えると、ほぼ全ての企業が初月無料なのではないでしょうか
実際の売上にも良い影響がでることが実証されているのだと考えます
一度保有してもらえれば、新システム側にも保有効果が発動します
結果として、フラットな観点で新旧の比較をしてもらえることに繋がります
お試し期間はあくまで正しく評価してもらうためのものであり
本来よりも高く評価してもらうために使うものではありません
「一回使ってもらえればねじ込める」といった考え方は危険です
お試し期間で使ってもらうシステムやサービスについて
きちんとした実力があるものを提示するのはITコンサルの責任です
ちなみに
新システム導入により機能面が飛躍的によくなる場合や
マストな要件(可用性やスループットなど)を満たせる場合は
あまり苦労はいりません
現行システムを多少高めに評価していても、
新システム移行にかかるコストを超えるメリットが明らかなためです
まとめ
行動経済学の理論の一つ、保有効果をもとに
・お客様の保有しているものの価値を尊重する
・お試し期間などの形で、まずは一度保有してもらうことで価値を感じてもらう
というITコンサル現場での活用方法を紹介しました
ぜひ明日からの業務で意識していただければと思います
注意点ですが、本ブログでは、
行動経済学をお客様を良い方向、最適な方向に導くための効果的な方法の一つとして紹介しています
「自身の都合のいいように操る、誘導する方法」では断じてありません、ご留意ください
他にも現場で使える知識をブログで紹介していますのでご覧ください